東野圭吾氏の作品。

 

車での人身事故を起こし、執行猶予中のバーテン・雨村慎介が主人公。

 

事故をきっかけに、彼はそれまで働いていた「シリウス」という店を退職し「シリウス」のオーナー・江島光一の紹介で「茗荷」という店で働いていました。その「茗荷」に、客としてやってきた奇妙な男。帰り際のエレベーター前でその男に頭を強打され、事故の記憶を一部失くしてしまった慎介。

 

そして現れた瑠璃子と名乗る謎の女。行方をくらましてしまった恋人。人身事故があったあの日、あの時、あの場所で何があったのか・・・。記憶が戻るにつれ、事の真相が明らかになっていくというやつです。

 

かなりエグくて生々しい描写のプロローグから始まるのですが、これが「ダイイング・アイ」というタイトル、そして後半の部分に効いてきます。

 

抜け落ちたピースを求めて奔走する慎介は、やがてその鍵を握る瑠璃子に溺れていくのですが、瑠璃子の正体がわかったとき「ダイイング・アイ」の本当の意味がわかります。何より安全運転を心がけようと思いましたね。

 

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さだまさしさんの「償い」という曲がありますが、同じ加害者でも歌詞に出てくる“ゆうちゃん”とでは、罪の意識というか被害者や遺族に対しての向き合い方が天と地ほど違います。この差って何なのだろう。

 

この本質的な部分で人間性が問われるわけですが、これが事故への警鐘と共に作品の大きなテーマとなっています。

 

詳しくは書きませんが、真相解明の糸口となる部分で非科学的な要素が少々盛り込まれているので「無理がある」との見方もあるようです。が、逆にだからこその「ダイイング・アイ」なのかなと捉えました。

 

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この手の小説は、真相がわかったうえで、もう一度登場人物の言動に注視して読み返す、そうすると見えていなかった些細な言動の意図がクリアになったり合点がいってフムフムとほくそ笑む、そんな楽しみ方もありますよね。そんな醍醐味を味わうのにも、本書はまさにうってつけです。

 

この人怪しいなと思った人は、やっぱり怪しかったです。(笑)

 

 

あっ、そうそう。主人公がバーテンということもあり、「アイリッシュクリーム」「クレームドカカオ」といった洋酒や、「アレキサンダー」「スティンガー」「ジンアンドビター」「ビトウィーンザシーツ」といったカクテルの名前が出てきます。私はからっきしダメですが、その方面に詳しい方はより楽しめるかもしれません。

 

調べてみたら、「アイリッシュクリーム」はアイルランドのアイリッシュウイスキーとクリームを掛け合わせたカクテル、またはそれをイメージしたお酒のようです。

 

 

 

 

東野圭吾氏の作品は、こちらでも取り上げているので良かったらご覧ください。

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