
【ドール】
白粉の匂い カーテシー「ようこそ」と金糸の裾がゆれる回廊
ご機嫌はいかが? 壊れた人形の口が開いてクリスマスイブ
呑まれたら押し寄せてくる大群のネズミが嫌い 投げた絹履
目を開けてエトワール 兵隊はあなただったの ビロードの袖
銀色のレースの中へ連れ出したあなた ふたりで湖にいる
今だけのグラン・アダージョ チャコールの瞳の奥のパールホワイト
純白の羽の中から見つけたの なくした愛はここにあったの
呪われてグラン・フェッテ 微睡みのパ・ド・ドゥ堕天使 鍵穴の奥
繻子織の椅子に凭れてスュスのまま 主のいないドールは眠る
人形が壊れたみたい 一度だけ魔法をかけてドロッセルマイヤー
白鳥は戻っていくの 靄のなか消えてしまった群舞の森
アポテオーズ 糖菓子のヴァリエーションに花のワルツよ
装飾の一部となっているみたい 閉じ込められているのね、きっと
工房はレプリカだらけ 本物はそこにいたのね 今すぐ行くわ
華やかな衣装。
白粉の匂い。
金糸の裾。
ロココ調の舞台セット。
バレエの音楽。
バレエを習っていた子供のころは、あらすじの意味もよくわからず、ただ音楽に身を任せて踊っていただけでした。それでも華やかなドールハウスのような、どこか夢のような、そんな空気感だけは記憶に残っています。そんな世界観を思い浮かべながら詠みました。
バレエの代表的な演目である「くるみ割り人形」「白鳥の湖」「コッペリア」のモチーフを辿りながら、物語は進んでいきます。そして、少しずつ景色が変わっていきます。
所々に散りばめた仕掛けを拾いながら、バレエの舞台をひとつずつ眺めるような気持ちで読んでもらえたらと思います。
