
【筒】
筒
いましがた底意地を見た 頭上から「あなたも見る?」と筒を渡され
そう見えた気がしてぐるり回されて蟻がころがり絵柄はしなる
こんなはずだった世界で生きてきてガラクタばかり ほれみたことか
屈折の三面鏡よ そのズレで琥珀めくもの塵かグリッター
幻の霧
未練でもあるのでしょうか 草陰で覗き見ているあなたはだあれ
あの方は夢を見ているはずでして月影にいてひそんでいるの
いつからか人待つ女なるものと噂話を耳にしました
何事も忘れられないものでして背比べしたあの頃のこと
面影を纏っておいでなのですね つま先立ちでもしやもしやと
あの山を越えないうちに振り分けた髪もそろそろ伸びてきました
あれはそう幻の霧 幾年かどうやら夢を見ていたようで
六花
透過する六花のごとく降りしきる瑠璃のまんなか菊の連なり
するどさの角度がヒカリ丁子刃と光の筋がきめらく矢来
何重に見られてしまい切られてもいいと思える魚子つやめく
結界を踏み越えユラリ麻の葉の白き格子に酔わされるべく
朝焼けたカゴメカゴメの結び目は日差しを受けて八角になる
巣をなした蜘蛛の糸目は紫花にも亀にもみえてすかし素通し
八脚に銀の糸目が撓まれてこちらに向ける「あなたも見る?」と
「筒」「幻の霧」「六花」。
それぞれ独立した連作として書いた作品ですが、三つを並べてみると、不思議なことにひとつの流れが見えてきました。
覗くこと。
映ること。
そして、覗かれること。
三つの連作を通して、「見る」という行為が少しずつ姿を変えていきます。「筒」では、万華鏡を覗くように、見えている世界が次々と姿を変えていきます。「幻の霧」では、見る者と見られる者の境目が曖昧になり、現実の風景の中へ、夢や記憶のようなものが滲み出してきます。そして「六花」では、「筒」で覗き込んだ万華鏡の内部へ。そこに生まれる極彩の世界を、切り子細工の文様を借りながら描きました。
菊、矢来、魚子、麻の葉、籠目。色が変わり、文様が変わり、次の景色へと移っていく。そんな万華鏡の中を、ゆっくりと筒を回しながら覗いているような時間を思い浮かべていただけたらと思います。
そして最後には、蜘蛛が現れます。恐ろしくもあり、どこか救いを感じさせてもくれる蜘蛛の糸。その糸がこちらへ向けられたとき、最初の「筒」にあった言葉がもう一度現れます。
「あなたも見る?」
最初は、誰かから手渡された筒を覗き込みました。最後には、こちらへ向けられた視線そのものに出会います。そうして、物語はまた最初へ戻っていく。よろしければ、一首ずつではなく、三つの連作をひとつの景色として、順番に覗いてみてください。
これらの歌の背景にある「構造の解剖」については、noteにて詳しく綴っています。
