こちらの記事で予告して以来、ずいぶん遅くなってしまいましたが、宮城谷昌光著「夏姫春秋」の感想です。春秋時代の中国の物語で、第105回直木賞受賞作。

 

もともと昔からウチの本棚にあったのですが、同じく宮城谷昌光氏の著書である「随想 春夏秋冬」を読んで、手に取ってみようと思い立ちました。その経緯は、こちらにちらっと書きましたのでここでは省略しますね。もし興味があれば覗いてみてください。

 

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いかにも中国の歴史ものらしく登場人物が多く、国の名前もたくさん出てきます。それらを咀嚼しながらなので、普段よりも読み進むペースが遅くなりました。「随想 春夏秋冬」の柔和な文体と違って、聞き慣れない難しい語彙もたくさんあり、それらは成り立っている漢字からなんとなくの意味を推察したりするのですが、もっと勉強しないとと痛感させられました。その分、内容としては面白かったし、読み応えはありました。

あらすじ

妖花と謳われた絶世の美女・夏姫が主人公。夏姫は「鄭」という国で生まれた公女で、彼女を溺愛する実兄の子夷と不倫関係にありました。さらに、夏姫の美しさに目を付けた子宋、そして子宋に勧められた子家とも関係を持つようになります。そうしたことから、他国に噂が広がらないうちにと夏姫は「陳」の公族へと嫁がされることになります。

 

「陳」へ嫁いだ夏姫は、夫・御淑の子・徴舒を儲けますが、御淑は間もなく病で他界してしまいます。一方そのころの「鄭」は、「晋」と「楚」のどちらの国につくかで揺れ動いていました。「晋」と「楚」のどちらに舵をきり、それによって「鄭」がどうなっていくのか。夫の死、そして「鄭」の行方が、夏姫の運命をどう左右してゆくのか・・・。

 

上下巻あるのですが、上巻は「晋」と「楚」に翻弄される「鄭」の複雑な立ち位置を説明する感じで、夏姫の名前はそれほど出てきません。下巻は、身を捧げることで窮地を脱してきた夏姫、その母のおかげで出世することができた徴舒。成長した夏姫の息子・徴舒(子南)がどのように捉え、それによって夏姫がどうなっていくのかがカギとなっていきます。

 

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その妖艶さ故に、関係を持った男達は不幸になるとされる夏姫。男に翻弄され続ける夏姫としては、「美人はつらいよ」といったところでしょうか。いかに夏姫が魅惑的かの描写が秀逸で、それほどの容姿ならばぜひこの目で見てみたいと思わずにはいられません。個人的には、「武則天 -The Empress-」で麗しき武則天を演じた、ファン・ビンビン(范氷氷)さんをイメージしました。

 

芯が強いようで儚く、儚いようでしなやかで強い・・・。野心もなくどこか醒めていているようで強い情念があるのが夏姫という女性。世の男性が虜になるのは、容姿もだけどそんな掴みどころのなさにより魅了されるのかもしれませんね。

 

彼らは、夏姫と出会ったことで悲劇に見舞われたのは確かだけど、出会ったことを後悔しているかと言われればそれはどうなのかわかりません。訊いてみたいところです。