「エリカのように」

煮えたぎる血をよそにしてとりあえず地下へと進むエスカレーター

ファスナーが壊れてしまい優しくも強くもなくて負けだと思う

カジュアルな服が似合ったあの子らはよそ行き顔で地下鉄に乗る

熟したら誰のものでもないうちにさっさと食べて終わらせましょう

よれていく服の皺など見つめれば一部始終を割り切っている

練乳をベッタリつけた酸味ほど慣れ合いになるパックの苺

テンションが空回りする音楽にどういうわけか癒されている

なめらかで光沢のある質感が錆びれるほどにキャンデーとなれ

子宮にはいらないものがありすぎてどうか私に水をください

思い切り水を吸い込む欲求と痛みはなぜか離れずにいる

体質と決めつけている大量のヘモグロビンと君が足りない

あやしげに穏やかとなる冷気には避けて通れぬ不純物あり

湯上りの肌つやなんか気にしても小指はとうに冷え切っている

隠すのがとても上手な彼女らのヒエラルキーはアテにならない

ありのままさらけだすには弱すぎて鉛筆書きのコースをなぞる

唐突に死にたくなって目覚めたら君らしいねと彼が笑った

あてもなく徘徊すればあてつけに綺麗になっていたいと思う

君にならされて良かったあのときのエリカのようになれば良かった

なくなってしまえばいいと真剣に願っていたよ月に向かって

悲しみはてのなるほうへ逃げたがりガードレールが黒ずんでいる

整然とバレないように手を抜いたあの娘はまさか時計草かも

 

 

拙著『風花日和』に収録した短歌を再編成し、新たに一首「整然とバレないように手を抜いたあの娘はまさか時計草かも」を加えた連作です。