心が虚脱した状態のことを、ロシア語で「トスカ」と呼ぶらしい。小説家であり翻訳家でもあった二葉亭四迷は、ロシアの小説家であるマクシム・ゴーリキー原作「トスカ」を「ふさぎの虫」と訳したという。
誰しも生きていれば「トスカ」は付き物であり、飲まれないよう囚われないよう、あれやこれやと手を尽くしたりする。どう向き合うべきかといろいろ模索するけど、「トスカ」に見舞われたからといって、結果的にそれが“悪”に転ぶかどうかはわからない。「人間万事塞翁が馬」とも言うし、ならばもう少しだけ肩の力を抜いてみてもいいんじゃないかと思ったりもする。
けれど、そんな理屈通りに感情が動いてくれるわけでもない。結局のところ、そういうものだと諦めてやり過ごすことも多いけど、それも含めて生きるとはそんなことの連続だったりする。試行錯誤しながら、たまにはこうして「ふさぎの虫」の声にそっと耳を傾けてみるのも悪くない。誕生日を迎えた今日、そんな秋の夜長を今過ごしている。