月は、水面を打ったような静けさを携えています。たとえば音がなくとも文字で「シーン」と表すような、そんな静寂感です。この「シーン」を、音叉のあの響きに喩え、「冷えてゆく」「鳴ることもなし」と畳みかけることで、静寂を際立たせつつ、沈黙そのものが鳴っているかのような印象を与えています。
さらに、音叉は楽器のチューニングに使われるものなので、冷えてゆく=振動が弱まる、つまり正確さや基準が失われるというニュアンスも加わります。このため、物理的な意味と象徴的な意味が重なり合い、全体に深い響きが生まれている、そんな一首です。
今宵は「秋の名月」ですね。こちらの地方は、日中は晴れていたのですが、夕方に近づくにつれて少しずつ雲が広がってきました。果たして月は見られるでしょうか。