厨房で働いていた頃、手荒れに悩まされていました。いくらクリームを塗っても、手のひらや指先は常にひび割れ、乾燥しては痛みが走る日々。皮膚の表面のバリアがボロボロになっているところに、次から次へと洗剤などの刺激が加わり、回復の余地もなく悪化していくばかり。年中いつも乾燥と戦っているような状態で、まるでどうしようもないと感じることもありました。
そんな私の救世主となってくれたのがワセリン。ワセリンをこれでもかとしばらく塗りたくってみたら、あんなにひどかったひび割れがすっかりなくなって綺麗になったのです。以来、ワセリンは乾燥肌の私にとって、欠かせないアイテムのひとつとなってくれています。
その経験から、「皸といふ皸にワセリン塗りこめて」に非常に共感を覚えます。そして「立ち直りゆくものか」というフレーズには、心の傷が癒えるかどうかという不安や疑念も深く感じ取れます。なぜなら、皮膚のひび割れと心の傷は違うものだからです。
ただ、掲出歌にある通り、ひび割れた皮膚にワセリンを塗り込むように、心の傷を癒し立ち直るためにもバリアが必要だと感じます。必要以上の刺激から自分を守り、心が疲れたときには、癒しとなる好きなことやものを上手に取り入れていくことが、私にとって大切なケアの一部です。寒さ厳しい“冬の夜”、静かな空気の中で、少しずつでも心を温め、元気を取り戻していきたいものです。