「レディ・ゴディバ」とは、11世紀のイングランドの伯爵夫人、ゴダイヴァ夫人のこと。夫の重税に苦しむ民のために一糸まとわぬ姿で馬に跨ったという逸話のある貴婦人です。『俺はレーシングカー、ゴダイヴァ夫人の如く駆け抜ける』 Queen の「 Don’t Stop Me Now」という曲でもゴダイヴァ夫人のことが歌われています。
一方、「ゴディバ」は高級チョコレートブランドとして広く知られています。ブランドのロゴには、馬に跨るゴダイヴァ夫人の姿が描かれています。「レディ・ゴディバ」という象徴的な存在を恋心に重ねることで、情熱の激しさと、それに伴う純粋な献身や犠牲の美学が浮かび上がります。※GODIVA公式ページ
住民たちが夫人への敬意から目を伏せるなか、ただ一人、トムだけが馬上のゴダイヴァ夫人の姿を盗み見たことから、「ピーピング・トム(覗き魔)」という言葉の語源にもなりました。恋することは、ただ相手を想うだけでなく、相手の心の奥深くまで見つめ、知ろうとする行為でもあります。それが不安定な方向に向かい、脆く溶けてしまうこともあるのかもしれません。この短歌における「恋心」もまた、そうした想いの交錯や、手のひらで溶けてしまう刹那的な想いを内包しているのかもしれません。歴史・伝説・現代のイメージを巧みに絡めながら、恋の甘さと儚さ、献身と犠牲、視線と欲望の入り混じる深い世界を生み出しています。
「レディ・ゴディバのハート一片」という表現は、チョコレートの「ハート型の一片」を指していると同時に、ゴダイヴァ夫人の「心のひとかけら=愛と犠牲の精神」も示唆しているようにも思えます。そして、それが「口中にとけゆくほどの恋心」と続くことで、恋の甘美さと、それが消えていく儚さ、あるいは自己犠牲的な愛の行方までもが暗示されているようで、チョコレートの甘さとゴダイヴァ夫人の逸話が見事に重なっています。
