先日の記事でも書いたように、『本と雑談ラジオ』in豊橋2に行ったときに購入したのがこちらの本です。そのときに、頭で思い描いたものと一番近いものが書けた本ということを話されていました。

 

人の思考なんて理路整然としているわけでもなく、そういえばあの時も・・・あんなことがあってこんなことがあって・・・などと、あれやこれやとよぎったりもするものです。そんな脳内によぎったことをそのまま投影する形で、パーソナルな部分をさらけだしているそんな感じです。・・・いや、基本的に「です、ます調」なので、厳密にいえばそのままというのは正確ではないのでしょうが。

 

珈琲を片手に、珈琲好きの枡野氏のために差し入れられたあれこれを口にしているシーンから始まるのがお決まり。章ごとのサブタイトルが短歌になっているのがミソです。『本と雑談ラジオ』in豊橋2で対談されていた、古泉智浩氏のことも度々書かれています。

 

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その日あった出来事から風邪を引きやすくなかなか優れない体調のこと、唐突に離婚を突きつけてきた元妻への割り切れない想い、息子に会えないやるせなさ、何が気に入らなかったのか突然怒って一方的に絶縁宣言してきたとある女性のこと、疎遠になってしまった元相方や芸人仲間のこと、親交のある友人・仲間のこと。性的なことも含め、バカ正直に・・・かなり赤裸々に綴られています。

 

こうだったからこう思った、こう思ったからこうした・・・でもその結果、うまく行かなかった・・・それでも理解されなかった・・・。これはもともとwebサイトに掲載されていたものをまとめたものなのですが、そこに寄せられたコメントに対してもそんな弁明めいたことがたくさん書かれていました。

 

 

帯に、「人があなたを理解してくれないのなんて当然ではないですか!  中村うさぎ」とあります。あとがきには、誰も理解してくれないと嘆く枡野氏に送られた中村うさぎさんの言葉が紹介されていました。うさぎさんは枡野氏のこうした部分を「穴」と呼んでいます。

あなたの「穴」は、他人への過剰な期待。でもね、ここにひとつ問題が立ちふさがるの。「ま、他人なんてそんなもんだよ」と思ってしまえばラクにはなるが、他人への期待こそがあなたの快楽だろうから、その穴を失ってしまうと、ラクになる代わりに人生が楽しくなくなるかもよ。地獄を出たら、そこに広がっているのは果てしなく空虚で無味乾燥な砂漠。他人に期待し続けて苛立ったり苦しんだりし続けるか、他人に期待するのをやめてラクだけど殺伐とした面白くもない人生を歩むか。どちらを選ぶかはあなたが決めることなのよ。

 

地獄にならず、無味乾燥の砂漠にならない程度の距離感を模索するのが、人づきあいというものなのかもしれません。その距離感を掴むことはなかなか難しいものです。

 

 

何かに関する主導権を一人が握っている場合、そのほかの者は「手伝う」とこしかできないのです。私が私のやり方で全部やっていいのならば、それなりに家事は回っていたはずです。この構造は私が芸人活動のときにも実感しました。「このラインに達していなければだめだ」と言うことができるのは主導権を握っている者なのです。そこに従っている者は「ライン」を自分で決定することができないから、常に評価される側になってしまう。

 

こんな感じで「穴」の部分をつらつらと書き連ねるのが枡野さんなんなのだろうなぁとなんとなく思いました。枡野氏のことを理解しているなど思ってもいませんが、やるせなさや割り切れなさをぶつけたくなる気持ちはすごくわかります。

 

本書に書かれてあることに関していえば、めちゃくちゃな理論とは思わなかったし、言っていることはちゃんと筋が通っているようには思いました。ただ相手には相手の言い分もあるだろうから、ここに書かれてあることがすべてだとは思わないですけどね。

 

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人はみな心変わりを語らずに断捨離めいたサヨナラをする 枡野浩一

自分には全く身に覚えがないのに、何の前触れもなく人に拒絶された経験は私にも何回かありました。そうなるのが怖くて、よほど気を許した人でなければ深く関わらないように目に見えないバリアを張ってしまうところがあります。なかなか踏み込めないのです。

 

そんな経験を踏まえて「すんなりとこの指とまる人がいてあっさりとまた途中下車する」という短歌を詠んだことがあります。その反面、自分には自分なりの理論があるんだとわかってもらいたくて感情をぶつけてしまったこともありました。

 

自分と考え方が違っていてもそれはそれで全然かまわないけど、せめて「自分としてはこうだからこうしたんだよ、こうだったからこうなんだよ」ということはわかっておいて欲しいと思ったから。自分以外の人間を誰も理解できないのと同時に、それは誰しもが持っている当然の欲求なのだと思います。だから、会話が必要なのでしょうね。

 

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この夢は妄想であり実在のエグザイルとは無関係です 枡野浩一

EXILEになれなかった側の人間として、エグザイル兄貴たちへの羨望や妄想が綴られているのですが、枡野氏にとってエグザイル兄貴たちは「ちびまる子ちゃん」でいうところの大野くんや杉山くんのポジションなのだろうなぁ、きっと。

 

面白かったのは、枡野浩一短歌塾の受講生が詠んだというこの短歌。

姪っ子がEXILEの絵を描いている こげ茶と黒がなくなりそうです 二葉吾郎

ユーモアたっぷりでなんかすごくいいなぁと思いました。