英語のスラングとしての「pathetic」には、軽蔑や侮辱のニュアンスが含まれています。「みじめな」や「情けない」といった否定的な意味で使われることが多いため、「パセティックな樹」という表現にも、単なる哀感や儚さだけでなく、金木犀の香りをこぞってありがたがる人々への嘲りや皮肉、あるいは見下すような感情が含まれているように感じられます。

 

木犀の香り漂う静かな瞬間に立ち止まっていところへ、他者の「パセティックな樹」という評価が差し込まれる違和感。「木犀の香る木かげ」という美しい情景に対して、「パセティック」という感覚のズレに共感しきれず、その表現にどこかどこか腑に落ちない思いを抱いているのではと感じました。単なる感傷的な場面描写ではなく、他者の視点と自分の感じ方の微妙なズレが、この歌に深みをもたらしているように思います。

 

今年は暑さの影響で金木犀が咲き始めるのが遅く、ずっと今か今かと待ちわびていました。だからこそ、ようやく香り出した金木犀に「パセティック」という言葉が当てはめられることに、私自身、より一層違和感を覚えたのかもしれません。