連作「大輪となる」の全容です。

 

連作【大輪となる】    

 

第1章:壁越しの夢

隣人は知る由もなく壁越しに夢をひっさげ生きております

浮く肩に手を添えながら力まずに抜かなきゃダメと君が教えた

修正はしなくてもいいそのままで残しておいて君の痕跡

言語化に長けた君から紡がれた思考のうねり追いつきたくて

ハワイアンキルトのような原色を海の向こうの君にあげたい

その人のネイティブじゃない音階を聞き分けているローカルな耳

凡庸を抜け出す君の伸びしろは岩を砕いて千代に八千代に

咲ききながら自我が芽生えるようにして金木犀は散ってしまった

 

第2章:不協和音

一線をバグらせるのは気狂いのプロパガンダで歪んだモラル

リプライで漂白剤をぶちまける似非ヒーローが蠢いている

火炙りの刑に処すべく合法に遂行されるヘイトスピーチ

何もかも見てきたような口ぶりで押し付けられる固定観念

お気に召すままにかつての逸材が考えなしになぞるノウハウ

正論をこじらせながらシンプルに生きたいだけのゆらぎを鳴らす

歯車になりたがらない異端児のどうでもいいに倣う潮の目

やまれずに修羅へ修羅へと向く舵とジェリコの薔薇が抉る胸底

頭ごとこちらを向ける蟷螂の点と点とに宿る何者

深追いはしない主義だという君のジャックナイフが捨てられて雨

筋書きの狙い通りになすがまま尻尾を曲げるノラの遠吠え

 

第3章:大輪となる

泣き顔を一度ぐらいは見たかった夕陽に霞むタータンチェック

あるがまま白色光にさらされた顔が映って洗面を拭く

甘やかに勘をにごらせ自滅する憂いばかりを寄せるぬかるみ

のったらと先越されては跳ねおきて石につまずく迷路のウサギ

溶けあわず群れたがらない異分子が愛されたいと浮遊する闇

それなりの場数を踏んでいる君が呷り続けているハイボール

遙かなる影のまだらを跨ぐとき名もなき傷も舞台へと舞う

残された手札の中のジョーカーに触れたらそれは骨で立つこと

ライブには行かないことを決めたのは記念日だった前日の夜

絶対に退けないと君の言う天王山をここで観ている

一石はやがてうねりを呼ぶだろう君はどこかで大輪となる

 

第4章:玻璃のうつわ

タイミングひとつズレたらこの位置にいられなかった雨のささやき

クラゲには光に透ける芯がありラピスラズリの背中の向こう

ゆうらりと吐きだしながらゆるやかに囚われつつも鎖は糸に

面差しは朽ちることなく永劫に息絶えるまで息絶えてなお

満ち欠けて完成形はどこなのと曖昧なまま月はまあるい

境目を決めかねながら白黒のあわいでつなぐ螺旋階段

紫陽花は弛まずゆれて葉の裏に分銅となるカタツムリあり

二年後の猶予があればその先も伸ばす手のひら一縷の光

傷ひとつ隠すことなく立ち尽くす君の影こそ光のかたち

こんなにもあがいているとありったけ叩き出すからどこまでも跳べ

深くなる影もあなたに味方する 色を透かした玻璃のうつわよ