私たちになじみ深い「七草」といえば、春の七草や秋の七草が思い浮かびます。春の七草(芹・薺(なずな)・御形・繁縷(はこべら)・仏の座・菘(すずな)・蘿蔔(すずしろ))は、正月の行事や七草粥でおなじみ。秋の七草(萩・尾花・葛・撫子(なでしこ)女郎花(おみなえし)・藤袴・桔梗)といえば、万葉集の山上憶良が詠んだことで広まり、和歌の世界でも親しまれています。けれど、実は「夏の七草」という言葉も存在することをご存じでしょうか?
とはいえ、夏の七草は春・秋のように古典に明記されたものではなく、時代や人によって自由に選ばれてきた七草です。つまり「これが正解」というものはなく、詠み人の美意識やセンスがそのまま反映される、ちょっと自由度の高い「七草」なのです。
たとえば、こんな短歌があります。
けし、あやめ、かうほね、あふひ、ゆり、はちす、こがねひぐるま 夏の七草 高野公彦
(訳:芥子、菖蒲、河骨、葵、百合、蓮、金蜻蛉——これが夏の七草)
どこか華やかさと涼しさを感じさせる花々が並びます。「こがねひぐるま」はあまり馴染みがないかもしれませんが、これはラン科のトンボソウ(金蜻蛉草)。ひっそりと湿地に咲く繊細な花です。古典的な響きの中に、ひそやかな夏の涼感が漂います。

涼しさは よし い おもだか ひつじぐさ はちす かわほね さぎそうの花 勧修寺経雄
(訳:涼しさを感じる夏の七草——葦、藺草、沢瀉、未草、蓮、河骨、鷺草)
こちらは、水辺の植物を中心に、夏の涼を詠んだ一首。沢瀉は、ちょっとかわった葉の形をしているせいか「沢瀉紋」という家紋にも使用されていて、かわいらしい白い花を咲かせます。河骨は、黄色い花が特徴的。「ひつじぐさ(未草)」とは睡蓮の別名。「さぎそう(鷺草)」と同じく、夏らしい透明感があります。実は、この歌も「夏の七草」として数えられることがあり、水辺の涼しさを求める日本人の感性がよく表れています。


……なんて書きながら、私が「夏の七草」を選ぶなら、向日葵、朝顔、おしろい花、芙蓉、蓮、睡蓮、百合。どうしても、こういう“超王道の夏の花”になってしまいます(笑)子供のころから見慣れた花ばかりですが、やっぱり夏の空気や匂い、懐かしい風景を思い出させてくれる花たちです。ちょっと変わりどころとしては、ハイビスカスの仲間である風鈴仏桑華。その名の通りに風鈴みたいなフォルムで、花が揺れる姿がすごく涼しげなんです。

おしろいに 芙蓉 向日葵 仏桑華 百合 蓮 睡蓮 咲きて朝顔 朝倉冴希
あなたなら、どんな花を選びますか?