本日は、紅花が咲き初める「紅花栄(べにばなさかう)」
外のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘花の色に出でずとも 詠み人知らず
遠くから眺めてお慕いしましょう。末摘花のように色に出ることはなくとも。
人知れず思へば苦し紅のすゑつむ花の色にいでなむ 詠み人知らず
人知れず相手をただ思うのは心苦しくもなりましょう。紅の末摘花のようにはっきりと色を出さなければ。
これは人によってどっち派かわかれそうですね。相手との立場とかにもよるかな。源氏物語に出てくる光源氏は言うまでもなく前者、末摘花の君は少なくとも後者のような積極的なタイプではなさそうですね。
なつかしき色ともなしに何にこの末摘花を袖にふれけむ 光源氏
特に慕っている色でもないのに、なぜ末摘花の袖に触れて(手を出して)しまったのか。
一夜を共にした末摘花の君の容姿を見たとたん、興ざめしてそそくさを帰ってしまった源氏の君。それでも文ぐらいは送っておくかと詠んだのが次の和歌。
夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬにいぶせさそふる宵の雨かな 光源氏
夕霧が晴れるのをまだ見ることもなく気を滅入らせるように降り続けるのです宵の雨は
建前上は「雨雲がかかっているようにあなたが心を開いてくれないので憂鬱になります。雲の晴れ間を待つのは何ともねじれったいことです」みたいなことなのですが、要するに雨が降っているからそちらに向かうつもりはありませんということを暗に伝えているわけです。
晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心に眺めせずとも 末摘花
晴れない夜に月を待つ身を思いやってください。たとえ同じ心持ちでないにしても。
女房たちに散々せっつかれて、末摘花の君が手ほどきを受けながらようやく送った返歌。文もまともに返さないほど引っ込み思案な末摘花が、このときばかりは紫の紙(年月が経っているためすでに紫ではなく灰色になっている)にはっきりと力強く書いたというエピソードが個人的にはすごく好きです。