「半年たったんか」感想まとめ、弥生篇です。う~む、なぜだろう。もう少し早くUPするつもりが、やけに時間がかかってしまいました。(^^;) マイペースにやっていくので、気長にお付き合いいただけたらと思います。それではどうぞ。

 

弥生

 

やさしさで満たされてない街だから僕はティッシュを受け取っておく 佐々木則葉

「やっぱりこの街はやさしくないな」と思って欲しくないという心遣いですよね。ビラとかでもそうなんだけど、無視して通りすぎてしまうと殺伐とした自分になってしまうようで、欲しくもないのに受け取ってしまうことがあります。

 

星々の点描画への身勝手なロマンチシズムを嗤う神々 常陰ユーキィ

星座にはいろいろな逸話があるけど、自分がさそり座なので狩人・オリオンの逸話はなんとなく知っています。最後は大地の神・ガイヤの命令により、蠍の毒で殺されてしまうんだよね、オリオン。まぁ、これも諸説あるようだけど。星々の点描画というフレーズにロマンを感じます。

 

シュレッダーばらばらさつじん会社からわたしがひとりいなくなるだけ toron*

何があったのかわからないけど、理不尽な目に遭って去っていくことになってしまったんでしょうね。「ばらばらさつじん」というぐらいだから。「わたしがひとりいなくなるだけ」なのは“わたし”だけじゃなく、たぶん誰が欠けたってそう。組織ってそういうもので、そうじゃないとまわっていかないものだから。

 

イヤホンが私と君の動脈で他の全てはどうだっていい 池田輔

イヤホンを片耳ずつつけながら、「今繋がっている」ということが他の全てがどうだっていいと思えるぐらい重要だということなのでしょうね。青春だなぁ。

 

哲学が学ぶことではないようにジャズとは動詞なのだとおもう 松岡拓司

ジャズといえば、なんといっても伴奏に合わせたメロディラインをアドリブで弾く即興演奏ですが、あれも感性から生まれるもので学んで得られるものではないのかもしれません。それを、ジャズのあの旋律の躍動感と重ねて「動詞」と表現するのは見事だなと思います。

 

券売機わきの窓からにょきりっと駅員さんが生えてきて春 久藤さえ

にょきりっと顔を出すではなく、生えてくるというのがいいですね。最後の「春」で、新年度が始まったばかりだから、券売機に慣れてない人もいたりして駅員さんが対応しているのかなと想像しました。

 

分かり合えないことを分かってるコーヒーとミルクにはなれない 佐々木菜々子

どんなに相手をわかっているつもりでも、コーヒーとミルクが溶け合うみたいに一体になれるわけじゃないから理解できない部分もあります。それを補うためにコミュニケーションがあるのであって、そこをおろそかにすると誤解が生じたりうまくいかなくなったりしますね。わかっているつもりでついつい忘れがちになってしまいます。コーヒーとミルクにはなれないんだからもっと言葉を交わさないとね。反省・・・。(;^ω^)

 

ろうそくが今今今と燃えており火とは進行形のことば 巴川かもと

確かに!!「火」ってそう!! 、今今今でまさに進行形でしかないということに気づかされました。薪ストーブの火を何年も見てきているのに何で気が付かなかったんだろう。

 

次、物理 予鈴のあいだに吹く風の中にひとすじシーブリーズ 黛海里

教室に爽やかな風がサーッと吹き抜けたときにかすかに香ったシーブリーズ・・・「あっ、いい風」ぐらいで終わってしまいそうなひとこま。感性が鋭くないと、その一瞬を捉えるのは難しいと思います。「次、物理」を最初にポンと置いたのも、情景が浮かぶのに一役買っていますね。

 

複雑なバスの路線図ゆっくりと星座に変える秘密のバイト 涅槃girl 

ファンタジーの世界だけど夢のあるバイトですよね。路線図をつなぎ合わせて何座ができるのだろう。

 

「大人になる」とは賢くなることだつて思ってゐたのに あっ、タンポポ 宮本背水

大人になった今でも、本質的には子供の時と何も変わらないなぁと思います。大人になったらもっと「大人」になれると思ったのに・・・。たまにこんなんでいいのかなと思うけど、今さら変えようがない気もします。(^^;)

 

人間の交尾を自由研究にしている神がいませんように 鴇巣

私達のいる世界がスノードームみたいになっていて、それを別の何かが俯瞰から見ているかもしれないとそんな考えがふとよぎることがあります。やだなぁ、人間の交尾を自由研究にしている神がいるとしたら。(笑)

 

意味もなく呼吸を止める数秒のわたしを誰が叱るだろうか 小川ゆか

ほんの数秒だけ呼吸を止めていても、言われなければ気づける人はほとんどいないでしょうね。気づいたとして、たった数秒呼吸を止めることに本気で心配する人や、叱って止める人はほとんどいないのかもしれません。とはいえ本人はそれを自虐的にしていることを自覚しているから、 誰かに「バカなことはやめなさい」と叱って欲しいんですよね、きっと。叱ってくれるとしたら誰なのだろうって思いを巡らせながら。

 

五音だけ出てこないから今日は寝て明日の私にバトンを渡す 春名岩子

あ~、あります、あります。あまりに出てこなくて「もういいや、寝よ」ってとき。しょうがないのよ、そういう時は。明日の私よ、まかせた!!

 

人類がはじめて死者のとむらいに手向けた花へ降りた朝露 山口綴り

人類がはじめて死者に花を手向けたことに思いを馳せたことはありませんでした。朝露か降りているということで、花が手向けられてから一晩は経過しているということがわかります。そのあたりの描写の仕方が巧いなと思いました。

 

これでいいあの日の記憶は消えてゆき感熱紙とは罪のないもの 瑞坂菜

感熱紙・・・ってありましたね。時間が経つと色あせて消えちゃうんですよね。あの日の記憶は消えてゆきって、まだ消えていないからね。感熱紙とは違って、そうやって奥底にずっと居残り続けるような気がするのは私だけかな。

 

さっきから君の向こうの席からの話の内容だけが気になる モカブレンド

君の向こうの席の人が気になるのか、話している内容だけが気になるのかで大分意味合いが違ってきますよね。どんな話をしているのだろう。

 

泣きながら喉にこぼしたアマレット焼くには甘い救われるにも 水也

刺激で悲しみを紛らわせたいのに、リキュールだから甘いんだね。ならウォッカとかをチョイスすべきなんだけど、わざわざアマレットにしたところに魅力を感じて私は好きです。

 

横顔を描くのが好きだチューバッカどんなひとにも横顔はある 草薙

チューバッカって、スターウォーズに出てくる毛むくじゃらのハン・ソロの相棒ですよね。インパクトのあるこの名前をポンと持ってくるのがセンスあるなぁと思います。横顔が綺麗な人は、顔立ちが整っていることが多いですね。

 

空も海も色はないのに 交じり合わぬと誰が決めたの 良迂

空は空気の層だし、海水も基本的には無色透明。もともと色はないんですよね。忘れてしまいがちだけど。そう考えると不思議。

 

透明な少女は死体になれなくてネクロフィリアに失恋してる れもんぜすた

ネクロフィリアに恋をして叶うとすれば、それは死体になるしかない・・・なぜならネクロフィリアとは屍体愛好者だから。ネクロフィリアに恋をしなくても、たとえば恋愛が成就することで相手を不幸にしてしまうかもしれないとか、好きならガンガンアプローチして行ったれ~!!とはいかない場合もありますよね。そういうもどかしさを詠んだものなのかなと感じました。

 

揺らすのをやめたとしてもしばらくはあなたのために立つ波がある 赤那灼風

うん、うん。余波が鎮まるまでは心がざわつきますよね。それを“未練”などと人は呼んだりするのだけど、本当の心の内は本人にしかわかりません。

 

あったか~いボタン光らなくなってからずっとずっとずっと泣きそう 穂積文月

自販機というより、心のあったか~いボタンなのでしょうね。再びあったか~いボタンが光るには、誰かの手で“愛情”が補充される必要があります。

 

この街にブロンコビリーが馴染むまでいくつの春が必要だろう 天野うずめ

ブロンコビリーの外観からして、場所によっては周囲の景色に全く馴染まなかったりするんでしょうね。ブロンコビリー自体がどうこうじゃなくて。「馴染む」にも、見慣れていくのと、馴染むような景観に変わっていくのと二通りありますからね。

 

木もれ日に膨らんでいく風の音のソだけ集めた音楽を聴く しえすた

例えば、「ラ」とか「シ」ではなく「ソ」なんですね。なぜ「ソ」なのだろう。実際に、風の「ソ」の音色だけを集めた音源があったら聞いてみたいです。

 

海深く電気クラゲの明滅を見るのは誰か ひととは何か 風野瑞人

ひととは何かって、なんだか哲学的ですね。海深く電気クラゲの明滅を見ているのは自分自身で、こうして電気クラゲを見ている自分は一体何者なんだと問いかけており、その先の「ひととは何か」なのだろうと解釈しました。

 

眼を閉じて心は駆ける草原を今は叶わぬ老犬の夢 Taromaru8

昔、飼っていた愛犬も病気で死んでしまったけど、横たわりながら草原を駆ける夢でも見ていたのかもしれません。そんなことを思いました。

 

わたしにはわたしのリズム ご・しち・ご・しち・しち いつも忘れぬように 華栄

いろんな人の考え方に触れて、参考にしたり取り入れたりするのはいいことだけど、ただ漫然とそうしていては自分らしさを失ってしまいますよね。私も「らしさ」を忘れないようにしなければ・・・。

 

ほんたうの闇の中では木は白く幾百と刺すオリオンの腹 西藤智

オリオンの逸話は諸説あるけど、一時期オリオンは盲目にされてしまうから「闇」とはそのことを指しているのでしょうか。幾百というのはサソリの群れ?それともオリオンをめがけて放たれた矢?不思議な世界観を持った一首です。

 

白梅の蕊は小雪をうけとめてしづかに溶かす春の触角 阿坂れい

花めぐりで梅の花を見に行ったりもしますが、あの蕊があることで梅の花だなぁと感じます。「うけとめて」とひらがなにすることで調べがなだらかになるのと品が増しますね。「春の触角」というフレーズが素敵。

 

手渡せばあのひとをめぐるみずとなるペットボトルのわたしの微熱 蒼井杏

飲料水のCMなんかに出てきそうですね。「このひと」だったら彼女だったり親しい関係なのかなと思うけど、「あのひと」なので立ち位置としては“憧れの存在”なのかな。

 

スピードに気を付けましょう死角から春が飛び出すかもしれません 若枝あらう

最近の気候の変化にはなかなかついていけませんね。日照不足の日々が続いている死角から、とんでもない猛暑がワッと飛び出しそうで今から怖いです。(^^;) スピードに気を付けましょう。

 

ふわふわのわたあめみたいな恋をして君の彼女になりたかったな 華妃

大好きな君の彼女になりたかったという率直な意味だと思ったけど、ひょっとして“君”は本命じゃない他の誰かのことなのかもしれませんね。「あなたみたいな人を恋愛対象として好きになって、あなたみたいな人と付き合えたらこんなに切なくなることはないのにね。ふわふわわたあめみたいに甘くいられたのに・・・」・・・でも、そうじゃない人を好きになってしまった・・・というね。

 

爪切りの銀を見つめる満月へ おやすみ 規則正しい音より 友漓ゆりり

爪を切りながらにふと視線を窓へ移すと綺麗な満月がのぞいていて、「おやすみ」を告げながら・・・あるいは告げるように再び爪をパチンパチンと響かせている・・・そんなシーンを思い浮かべました。「規則正しい音より」の言い回しが巧いですね。

 

「あの味がよかったね」って知らねぇよどの味だよ今さらだ記念日 泳二

俵万智さんの著書「サラダ記念日」のあの短歌の本歌取りですね。「あの味がよかったね」と言って「知らねぇよどの味だよ」と返ってきたらちょっと悲しいけど、「今さらだ記念日」にはクスッ(笑)となりました。

 

日の当たる場所が正義でないと知る この世に優しい雨があるので 青白放理

雨が降らなきゃ降らないで困るしね。日の当たる場所も正義の価値観も、時代や情勢で変わるし、コミュニテイーによっても違ってきますしね。だからこそ、自分の頭で考えることが大切なのだと思います。

 

熟れてない林檎を齧る僕はまだあなたの含有率を知らない おおはしけんじ

あなたの含有率を知らないとは、あなたにとって僕の存在がどの程度占めているのかを知らないということなのかなと最初思ったけど・・・。あなたという人間との関係性が熟されていないのに、“ひょとして毒”があるのかもわからないのに、禁断の果実である林檎・・・あなたに手を出してしまったということかもしれないと勝手に解釈しました。

 

めずらしくきみが煙草を吸った日のだれのかなしみでもない豪雨 朝野陽々

こういうとき「煙草を吸うなんてめずらしいね。何かあったの?」とあっけらかんと訊いちゃうタイプ、敢えて触れずにそっとしておくタイプ・・・また自分なら相手にどうして欲しいか。性格が出ますよね。私ならどうかなー。訊くかどうかは相手のキャラやその場の空気に合わせるかな。そしてどちらかというとそっとしておいてほしいタイプかも。

 

怒るって決めたことだよ銀行の窓に映った私に告げる あおきぼたん

「怒るって決めたこと」と言い聞かせているということは、そうしなればならないとそれなりの信条と使命を持っているのでしょう。

 

君がなお青春だったと認めないグラスの中の炭酸の泡 hs

それはまだ青春しているからであって、自分の中で「青春だった」と終わらせるには早いということなのかもしれないよ。そうなら、それはそれでとても素敵なことだと思います。