藤波の咲く春の野に延ふ葛の下よし恋ひば久しくもあらむ 詠み人知らず
藤の花が咲く春の野に蔓延る葛のように、心の中で慕っているばかりでは、この恋が成就するのは遠い先のことになってしまうでしょう
山藤が咲くようになって、通りすがりに綺麗だなぁと思っているうちに盛りが過ぎてしまいました。ほぼ花が枯れてしまった木もありますが、少し車を走らせればパッと見はそれらしく花を咲かせているような光景に出会うことも。
素朴ながらも、大胆かつ無造作に広げる枝葉にワッと花を咲かせる山藤。藤棚にある藤の花も大好きだけど、どちらかというと生命力の塊のような山藤のほうが、個人的にはより心を動かされます。
葛もウチの周辺にあるのですが、葉は大きいしあれはあれで群生すればそれなりにインパクトはあります。ただ、だからといってどうこうというわけでもなく素通りされてしまうか、雑草として厄介者扱いされてしまうかなんですよね。葛は葛でとっても綺麗な花を咲かせるので、花が咲けば綺麗だなぁと思うんですけど。
目につきやすく何も言わずともその“想い”を察してもらいやすいのは、どうしたってメジャーな藤の方でしょうね。わざわざ上句に「藤波の咲く」とおいて対比させるところに、そんな華やかな存在に対する羨ましさも多少あったのかもしれません。とはいえ、藤のような華やかさがあったとしても「察して」だけで恋が成就するとは限らないけど。
いずれにせよ内に秘めたまま何も伝えないでは、いつまでたっても想いが通じにくく、進展しづらいというのは確かですよね。
天に伝うように蔓を伸ばす藤と、地面を這うように蔓延る蔓。四方八方に絡みつき情念のようなものを感じさせる点では共通しており、内なる想いの強さを感じさせます。