2023年の今日は、1923年(大正12年)に発生した関東大震災からちょうど100年目にあたります。
小林天眠の依頼で受けていた、源氏物語全般にわたる現代語訳を含む源氏物語の講義の執筆に取り組んでいた与謝野晶子。平行するように別プロジェクトの源氏物語の現代語訳も手掛けており、「新訳源氏物語」として金尾文淵堂から刊行されました。その後も「源氏物語講義」の執筆はライフワークとして続けられていましたが、文化学院に預けられていた草稿が関東大震災によって焼失してしまうのです。
十余年わが書きためし草稿の跡あるべしや学院の灰 与謝野晶子
失ひし一萬枚の草稿の女となりて来りなげく夜 与謝野晶子
上記の歌にもあるように、10年余りかかって宇治十帖の手前まで訳されたその草稿は10000枚にも及びます。それほど心血を注いできた草稿が一夜にして灰になってしまったのです。私なんかはこうして書いているこの短いブログ記事でさえ、もう一度書き直すとなればため息の一つや二つ吐きたくなるただろうに、彼女の落胆はいかほどのものだったでしょう。想像もつきません。
それでも後に、不屈の精神力で「新新訳源氏物語」を書き上げたのですから、その芯の強さには敬服するばかりです。
源氏をば十二三にて読みしのち思はれじとぞ見つれ男を 与謝野晶子
わが十二ものの哀れを知りがほに読みたる源氏枕の草紙 与謝野晶子