竹浦道子さんの「ガラムマサラ」という歌集です。
ガラムマサラとは
「ガラムマサラ」という呪文のような題名がまず目を引きます。ガラムマサラとは、カレーに入れるための複合調味料。入れると風味がガラッと変わって引き立つので、常備されている方も結構いらっしゃると思います。1人暮らしをしていたときはよく使っていました。
元写真屋さんならでは視点
バス停に所在なげになるこのベンチ人はバス来る方を見て立ち
どことなく物憂げなると見てゐしが妊娠告げてふふふと笑ふ
秋の日は唐突に来ぬ見よ見よと空地を埋めてひらくコスモス
散歩をへてこれよりマンションに帰らむと女はリュックに犬をつめこむ
著者の竹浦さんは、元々は写真屋さん。母親が経営していた写真屋を引き継ぎ、現在は宇都宮で「パイプレスト」という地元では名の知れたカレー屋を営まれています。そんな経歴を知り、「ガラムマサラ」という題名も、感覚としてどこか客観的だなと感じたのも頷けました。↑のように、写真を撮るようにして情景を切り取っている歌が多くあります。
日常り何気ないときにふと、もう一人の私を意識することがある。それが大抵の場合、同じような雰囲気というか、映像のような感じで、もう一人の私を意識するのだ。
引用元: 竹浦道子歌集「ガラムマサラ」 あとがき
固くかたく両手に茹で菜の水気きる何かを殺むるほどの力に
写真には右にてつまりは左顎わが噛みぐせのふくらみ写る
このくらいの笑顔でいいかねえ鏡 泣きたい気分にほほゑむときは
共倒れさけてこの母手放すに苛むことは言い訳に似む
きつばりと背中向けるもわたくしの生き方つまり可愛げなくて
そう。目に見える情景だけではなく自分自身の言動を詠んだ歌も、まるで自分の映像を見ながら実況しているように一歩引いたものを感じたんですよね。
普段からそういう第三者の視点で物事を捉え方をしていたということで納得なんですけど、じゃあ具体的に何をもってそう感じたのかと問われると何なんだろう。その答えをずっと考えているんですけど、未だに答えが見つかっていません。(^^;) ・・・まだまだだなぁ。
自分のことを客観視するのって難しいですよね。鏡にふと映った自分が思いのほかマヌケ面だったり、猫背だったりして愕然とすることよくあります。あと、声のトーンね。自分の脳内イメージと言動のギャップを埋めたいというのは常にあるのですが、意識していないとなかなか難しいですね。永遠のテーマのひとつです。
それにしても、写真屋からカレー屋という全く畑違いの業種に転職したバイタリティーはすごいですよね。短歌の中にも、そんな腹を据えた女性の凜としたたおやかさがあり、それがすごく素敵だと思いました。
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煮込みゐるカレーの背筋がぴんとたつガラムマサラのこのひと振りに 竹浦道子
最後に、竹浦さんが経営されているカレー屋さんの店舗情報を掲載しておきます。美味しいと評判みたいなので、お近くの際はいかれてみてはいかがでしょうか。機会があればぜひ訪れてみたいです。
【パイプレスト】
栃木県宇都宮市宿郷3-2-1
営業時間 11:30~14:00 18:00~23:00
定休日 日曜・月曜・祝日