「花の名に定家は残り」の「花の名」は定家葛 (テイケカズラ) のこと。「定家」とは藤原定家のことであり、謡曲 (定家葛) にもなっている式子内親王との伝説のことを暗示しているのだと思われます。伝説をざっくりいえば、定家の内親王を慕う情念がテイケカズラとなって、内親王の墓石を這って覆いつくすというものです。
伝説は伝説として、実際に二人の関係がどうであったのかは定かではありません。諸説あります。ただ定家の父である俊成が、式子内親王に和歌を教授していたこともあって、定家ともそれなりに関わりがあったのは確かです。定家自ら書いた「明月記」の記述によれば、病気がちな式子内親王をよく見舞っていたようです。
テイケカズラは今の時期になると見かける花なんですけど、そうスクリューみたいな花びらをしていて可愛らしいんですよね。放っておいたらがっちりと締め付けるように蔓延るうえに、蔓が細くて絡まりやすいテイケカズラ。木や壁に纏わりつく様子は、情念や執着心といったものに重なるのも頷けます。あるいは現代社会特有の、過剰なまでに道徳や倫理観を求めようとする風潮への煩わしさとか。
慕情も倫理もがんじがらめに押し付けてしまっては息苦しくもなり、それを知ってか知らずかテイケカズラは何食わぬ顔をして、白く小さなスクリューに似た花を咲かせて散らします。
花言葉は「依存」「 優雅」「栄誉」「優美な女性」「爽やかな笑顔」
玉の緒よ絶えなば絶えね長らえば忍ぶることの弱りもぞする 式子内親王
私の命よ 絶えるなら絶えてしまっておくれ。生き長えれば (恋心を) 堪え忍ぶにも弱まってしまいそうだから。
来ぬ人を松 (待つ) 帆の浦の夕凪に焼くや藻塩の身も焦がれつつ 藤原定家
待っても来ない人を待ち続けているのです。松帆の浦の夕凪の浜辺で焼かれる藻塩のように恋い焦がれてつつ。