七夕ですね。こちらは先ほどから雨が降り出してきて、残念ながら天の川を見るのは難しそうです。雲がかってはいたものの、日中は太陽が顔を出してくれていたんですけどね。七夕の夜って、なぜかすっきりと晴れないことが多い印象があります。
牽牛の思ひますらむこころより見るわれ苦し 夜のふけゆけば 湯原王
牽牛(彦星)の胸中はいかばかりか、そのお気持ちより見ている私のほうが心苦しくなります。夜が更けてゆけば物思いにふければ。
織女の袖つぐ宵の暁は川瀬の鶴は鳴かずともよし 湯原王
織姫が(彦星と)袖を交し合ったその宵の暁には、川瀬の鶴は鳴かなくてもいい。
終わってほしくないほど多幸な時間であるほど、終わりが近づくにつれて切なくて苦しくなったりもしますよね。牽牛の心情を慮る湯原王は、天智天皇の孫であり、志貴皇(施基親王)の子にあたります。万葉集には娘子との相聞歌など19首の和歌が掲載されていますが、娘子に寄せる想いと重ねていたのかもしれません。
絶ゆと言はば侘しみせむと焼き太刀のへつかふことは幸くやあが君 娘子
関係を絶つと言えば侘しい思いをさせるだろうと、付け焼刃のように近しく接することが幸せなのですか、あなた。
自分事のように二星に思いを馳せる繊細で優しい一面を持つ湯原王ですが、自分に向けられた優しさが“付け焼刃”だと見透かしてしまった娘子にしてみれば、真綿で首を絞めつけるように残酷でもあったようです。
どうやって終わらせようか満ち足りた幸福感と空虚の中で (朝倉冴希)