歌人の永田和宏氏と、モデルの知花くららさんとの共作です。くららさんは、国連WFP日本大使としてもご活躍されています。
知花くららさんが短歌を始めたきっかけ
ミス・ユニバースの2006世界大会(第55回大会)で総合第2位となり話題となった知花くららさん。短歌とはあまり接点がなさそうな彼女が、なぜ短歌に興味を持つようになったのか、まずはそこから説明してみたいと思います。
くららさんが短歌に興味を持ったは与謝野晶子。学生時代に習ったときは何も思わなかったけど、大人になって「みだれ髪」を読んでみたところ、恋に対して向こう見ずな感じが「ああ、わかるかも」と何度も読み返したのだそうです。
そしてある時、雑誌の取材でその話をしたところ、ライターさんから「現代歌人もすごくいい歌を作ってらっしゃいますよ」と送られたのが永田氏と歌人・河野裕子さん(永田氏の妻)の共著「たとへば君 四十年の恋歌」だったのだとか。その後、独学で短歌を作り始めたくららさんは、永田氏に師事し「第63回角川短歌賞」で佳作を受賞されました。
どんな本なの?
歌人の永田和宏氏と、知花くららさんの対話方式で話は進んでいきます。もともと『週刊朝日』に連載されていたものに加筆し単行本化されました。
構成としては、師匠の永田氏にくららさんが技術的なことをについて教えを受けたり、投稿歌やくららさんが選んだ「好きな短歌10首」について意見を交わしたり、くららさんが初めて出席された歌会の様子などが掲載されています。対話形式なので質量の割にさらっと読みやすいです。短歌に興味があってもなくても、物事の捉え方の幅に広がりをもたせてくれる良書だと思います。
技術的なことをいうと、「一番言いたいことはあえて言わない」(永田氏はこのことをドーナッツと表現されています)、「説明しすぎない」という二点を特に強調されていましたね。投稿歌で指摘されているダメ出しのほとんどがこれ。どこを削ってどこを際立たせるかというのはなかなか難しいところですが、読み手に感じ取ってもらう余韻を残すということはそれほど大切で肝というべきものなのだと改めて認識しました。
著名な歌人の歌もたくさん紹介されており、どういう点において優れているのかを丁寧に説明されているのでとても勉強になります。
***感想
永田氏の妻で、歌人の河野裕子さんのことも時折話されているのですが、その会話が心に強く残りました。乳がんを患い、ついには筆を持つこともできなくなって、それでもなお家族が口述筆記することで最期まで歌を詠み続けたという河野さん。
河野裕子さんといえば、「たとえば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらって行ってはくれぬか」という一首が有名で私も大好きな歌ですが、亡くなる前日に詠まれた最後の歌という「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」という一首に心をギュンと持っていかれました。「息が足りない」・・・なんて切実な歌なのだろうかと。
それと、「自分にしかない視点をもった歌は面白い」というのには、ちょっとドキッとさせられたというか考えさせられた部分です。
私が詠む短歌は、シチュエーションはそれぞれあっても「こういう気持ちってあるよね?」という部分を切り取り、それを核となる形容詞を用いず共有するパターンがほとんどでそれを自分のスタイルとしてこれまでやってきました。ですが、自分がこれまで詠んだ歌を振り返ってみて、果たしてこれは自分にしか詠めない歌なのだろうかと頭の中でグルグルグルグル・・・考え込んでしまいました。
「自分にしかない視点」って何だ?
短歌って実に奥が深いです。もっと感性を磨いて精進せねば・・・。本書を読んでもっといろいろなスタイルの歌に挑戦してみたいとも思いました。
では、また~。