いつの日からか、深夜眠りに着く前にノートに言葉を紡ぐようになった。それがその日の自分を肯定し、やがて訪れる次の一日をどうか乗り切る護符の役割を果たしてくれることを強く望みながら。脳内で心地よく再生されるためにリズムが必要だったので、その言葉たちは自然と歌になっていった。

 

そんな歌が生まれる夜は「遊泳前夜」と名付けられ、本のタイトルにもなっています。時には抗い、時には流され、様々な感情と戯れながら生きていくことを「遊泳」と呼び、それが自分なりのロックンロールなのだと。あとがきにはそう書かれています。

 

感覚的にどこか歌詞の一部を切り取ったように感じたり、誰かの問いかけに答えたり、誰かに問いかけるような描写が目立つなと思ったのはそういうことなのだなと納得しました。ここに記されたものは「遊泳」を回顧した記録なのだと。

 

そもそも短歌というのはそういうものなのであり、いわば「遊泳の記録」なのだけど、そこで生まれた感情を感情のままシンプルに切り取ったイメージ。だから、情景の描写が極端に少ないというのも特徴のひとつです。

 

短歌なのだけど、それよりもどちらかというと57577の歌詞を書くイメージなんじゃないかなと思わせる節があったのは、きっと彼自身が「ロックンロール」を常に意識していたからではないかなと思います。

 

・・・あとね。

申し訳ございませんが総務課の田中は海を見に行きました 

から始まる総務課の田中シリーズが、個人的にはすごく好きです。

 

総務課の田中は席におりますがたぶん何かに憑かれています

みたいな感じで、受付もしくは電話口で応対するテイで「総務課の田中は・・・」と続くのですが、こういうのツボなんですよ。総務課の田中さんが実在するのかどうかわからないけど、パッと思い浮かんだのは長身で眼鏡をかけた繊細そうな男性でした。でもよく考えたら、女性の可能性も大いにありますね。

 

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では最後に、本書の中で心に引っかかった短歌をいくつかピックアップして終わりにしたいと思います。

 

人生が面白くない場合って何科に行けばよいのでしょうか
生きてるといろんなことがあるという参考資料だらけになった
あの人はちょっと映画の観すぎだと言われるような僕でありたい
墓場まで持って行くもの山積みで僕の部屋まで来てくれますか
引退を決意してから二ヵ月で恋愛界に復帰しました